
プロフィール
寺田 晴哉
フリーランスデザイナー/グラフィックデザイナー
制作会社・広告関連会社・事業会社にて、バナー・チラシ・パンフレット・Web画像など幅広いグラフィックデザインを経験。在職中から個人でのデザイン案件にも取り組み、実績を積み重ねる。2024年にフリーランスとして独立。現在はLP・SNS画像・動画内グラフィックなど、デジタル・紙媒体を問わず多様なクリエイティブ制作を手がけている。
クライアントから「もっと目立たせてほしい」と言われ、その通りに直したのに、なぜか良くならなかった。むしろ全体のバランスが崩れてしまい、「あれ、これで本当に良かったんだっけ」と手が止まったことがあります。要望を反映することと、要望を叶えることは、似ているようで少し違う。
この記事では、2024年からフリーランスとして独立した筆者が、クライアントの言葉の奥にある目的をどう受け取り、デザインとしてどう整えているのかを、実際の制作経験をもとに紹介します。
言われた通りに作ることが、要望を叶えることとは限らない
はじめまして。フリーランスデザイナーの寺田です。
独立前は、制作会社・広告関連会社・事業会社などで、主にバナー、チラシ、パンフレット、Web画像などのデザイン制作に携わっていました。会社での仕事と並行して、個人でも少しずつデザインのお仕事を始め、2024年からフリーランスとして独立しました。
現在は、LPやSNS画像、動画内のグラフィックなども含め、さまざまな媒体のデザイン制作を行っています。
デザイナーとして仕事をしていると、クライアントからさまざまな要望をいただきます。
「この文字をもう少し大きくしたい」
「もっと目立たせたい」
「余白が気になる」
「情報をもう少し追加したい」
制作の現場では、こうしたやり取りは日常的にあります。
もちろん、クライアントの要望を正確に受け取り、形にすることはとても大切です。ただ、私自身の経験では、言われたことをそのまま反映したはずなのに、うまくいかない場面もありました。
文字を大きくしたことで、確かにその情報は目立つようになった。でも、他の要素とのバランスが崩れて、全体としてはかえって伝わりにくくなってしまった。そういった経験を重ねる中で、クライアントの要望を叶えることと、言われた通りに作ることは、同じではないのかもしれないと考えるようになりました。
ここでいう「作業屋さん」とは、制作そのものを軽く見ている言葉ではありません。手を動かして形にする時間は、デザインに欠かせない大切な工程です。ただ、クライアントの言葉をそのまま反映するだけに留まり、自分なりの視点や判断を持てていない状態になってしまうと、独立して仕事を続けていくうえでは難しさを感じる場面があります。
この記事では、具体的なデザインノウハウというよりも、独立してデザインを仕事にしていく中で、私自身が大切にしている「要望との向き合い方」について書いてみたいと思います。
要望通りに直したのに、うまくいかなかった案件
以前、サービス告知用のバナー制作で、「キャンペーン内容をもっと目立たせたいので、文字を大きくしてほしい」という要望をいただいたことがありました。
当時の私は、まずその言葉通りに対応しました。キャンペーン名や訴求文の文字サイズを大きくし、目立つように調整しました。たしかに、文字そのものの存在感は強くなりました。でも、全体を見たときに、どこか違和感がありました。文字が大きくなった分、余白が詰まり、メインビジュアルとの関係も窮屈に見える。ボタン周りの視認性も弱くなり、見た人がどこから情報を追えばいいのか分かりにくい。「目立たせる」という要望には応えているはずなのに、デザインとしては少し伝わりづらくなってしまったのです。
そこで改めて、クライアントに確認しました。
「一番目立たせたいのは、キャンペーン名でしょうか?それとも、申し込みにつながるメリットの部分でしょうか?」
話を聞いていくと、本当に伝えたかったのはキャンペーン名そのものではなく、「今申し込むと得られるメリットを、ユーザーにすぐ理解してもらうこと」でした。つまり、必要だったのは単に文字を大きくすることではなく、ユーザーが一目でメリットを理解し、そのまま行動しやすい導線をつくることだったのです。
そこで、再度デザインを整理しました。まず目に入る位置にメリットを配置し、補足情報は少し抑え、ボタン周りには余白を持たせました。全体の中で視線が自然に流れるように調整したことで、伝えたい情報が整理され、窮屈さも少なくなりました。結果として、クライアントからも「伝えたいことが整理されて見やすくなった」と言っていただけました。
この経験は、自分にとって大きな気づきでした。「文字を大きくしてほしい」という言葉の奥には、
「大事な情報が伝わっていない気がする」
「見た人に行動してほしい」
「今のままだと少し弱い気がする」
という不安や目的が隠れていることがあります。
そこを確認しないまま表面的な修正だけで進めてしまうと、要望には応えていても、本来のゴールから少しズレてしまうことがあるのだと感じました。
要望を受け取ったら、まず「なぜ」を考える
それ以来、要望を受け取ったときは、すぐに手を動かす前に一度立ち止まるようになりました。
たとえば、「この文字をもっと大きくしてください」という要望があったとします。そのまま文字を大きくすること自体はできます。実際に、文字を大きくすることが正解の場面もあります。
ただ、自分の場合は、そこで一度「なぜ大きくしたいのか」を考えるようにしています。本当は、
「この情報を見落とされたくない」
「他の要素より重要に見せたい」
「ユーザーに最初に気づいてほしい」
「今のデザインだと少し弱く見える」
という意図があるのかもしれません。
そう考えると、「文字を大きくする」という要望は、最終的な答えというより、課題を見つける入口のように感じます。場合によっては、文字サイズを大きくするよりも、余白を調整した方が目立つことがあります。配置を変えることで、自然に視線が集まることもあります。周囲の要素を少し抑えることで、見せたい情報がより強く見えることもあります。
ただ、ここで伝えたいのは「文字を大きくする代わりに、こうすればいい」というノウハウではありません。大切なのは、どの手法を選ぶかということ以上に、なぜその要望が出てきたのかを一度考えることだと思っています。
この「なぜ」を考える姿勢は、目の前の要望だけでなく、クライアントとの向き合い方そのものにも関わってくると感じています。クライアントは、必ずしもデザインの専門家ではありません。伝えたいことや達成したい目的はあっても、それをデザイン上の言葉で正確に伝えられるとは限らないと思っています。
「もっと目立たせたい」
「余白が気になる」
「少し弱く見える」
「なんとなく違和感がある」
こうした言葉の中には、具体的な修正指示というよりも、完成物に対する違和感や不安が含まれていることがあります。
また、今はAIツールを使えば、誰でもある程度のビジュアルやデザイン案を作れる時代になっています。それでもあえてデザイナーに依頼してくださるということは、単に手を動かして形にすることだけではなく、「何をどう見せるべきか」「どう整理すれば伝わるのか」といったデザイナーの視点を求められている部分もあるのではないかと感じています。だからこそ、自分は「要望が曖昧だ」と捉えるのではなく、相手はデザイナーのノウハウや視点を求めて相談してくれている、と考えるようにしています。
クライアントが持っているのは、事業や商品、サービスに対する深い理解です。一方で、デザイナーは、それをどう見せれば伝わるか、どう整理すれば届きやすいかを考える立場です。その会社や担当者と向き合う立場になるからこそ、相手の言葉をそのまま制作に置き換えるだけではなく、言葉になりきっていない意図を整理し、目的に近づく形へ翻訳することが大切だと感じています。
一方で、意図を汲み取ろうとするほど、気をつけたいこともあります。それは、自分の考えを押し通さないことです。
「受け身から抜け出す」というと、自分の意見を強く言うことのように聞こえるかもしれません。でも、自分の中では少し違います。クライアントの要望を否定したり、自分の表現を優先したりすることではありません。まずは、相手の要望を受け止める。そのうえで、その背景にある目的や不安を想像する。
「なぜここを目立たせたいのか」
「本当に優先すべき情報はどこなのか」
「見る人にとってわかりやすい順番になっているか」
「全体の印象と合っているか」
そういったことを考えながら対応するようにしています。
たとえば修正を返すときも、ただ「修正しました」と伝えるだけではなく、
「こちらをより目立たせたい意図かと思いましたので、全体のバランスを見ながら調整しています」
「文字サイズだけでなく、配置と余白で視認性が上がるようにしています」
「情報の優先順位が伝わりやすいように、見せ方を整理しています」
といった一言を添えることがあります。
大きな提案ではなくても、そうした小さな説明の積み重ねで、「ただ制作しているだけではなく、意図を考えてくれている」と感じてもらえることがあると思っています。
明日から使える3つの質問
最後に、要望を受け取ったときに私が実際に使っている質問を3つ紹介します。
1つ目は、「この情報は、どういう方に一番届けたいですか」という質問です。
対象が決まると、情報の優先順位を考えやすくなります。たとえば、初めてサービスを知る人に向けたものなのか、すでに興味を持っている人に向けたものなのかで、見せるべき情報の順番は変わります。
2つ目は、「今の状態で、いちばん気になっているのはどこですか」という質問です。
「なんとなく違和感がある」という言葉だけでは、どこに課題があるのか判断しきれないことがあります。気になっている箇所を聞くことで、文字の大きさなのか、余白なのか、情報量なのか、印象なのかを整理しやすくなります。
3つ目は、「これを見た方に、次に何をしてほしいですか」という質問です。
デザインは、見た目を整えるだけではなく、見た人にどう受け取ってもらい、どんな行動につなげるかを考えるものだと思っています。問い合わせしてほしいのか、購入してほしいのか、サービスを理解してほしいのか。ゴールが見えると、目立たせる情報や導線も決めやすくなります。
もちろん、毎回すべての質問をする必要はありません。まずは次の1件で、1つだけでも試してみると、相手の要望の奥にある目的が少し見えやすくなると思います。
要望と目的の間に立つのが、独立デザイナーの仕事
独立するということは、自由に働けるということだけではないと思っています。自分で判断する場面が増えるということでもあり、その判断に責任を持つということでもあります。クライアントの要望をそのまま反映することが、必ずしも相手の目的に近づくとは限りません。一方で、自分の考えだけを押し通してしまえば、クライアントワークではなくなってしまいます。
だからこそ、独立デザイナーにとって大切なのは、受け身のまま指示を待つことでも、自分の表現を押し通すことでもなく、要望と目的の間に立って、より伝わる形を考えることだと感じています。
“作業屋さん”で終わらないために必要なのは、特別なテクニックだけではないのかもしれません。クライアントの言葉の奥にある意図を考え、自分なりの視点で整理し、相手にとって必要な形に落とし込む姿勢。その積み重ねが、信頼につながり、継続依頼につながり、デザイナーとしての価値にもつながっていくのではないかと思っています。

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